もしよろしければ、ESR本社の愛川町まで来ませんか?
それは2022年サイクルモード東京で受けた衝撃の招待状でした!
ESRとはどんな会社なのか?
どんな自転車を開発しているのか?
あれ?マグネシウムフレームをつくっていた?
ということを伝えたいけれど、なによりも「開発陣は熱意あふれるガチンコこだわりの人たち!」ということを届けたいです!
ESRとは?
ESR本社はどこにあるのでしょうか?
それは人里離れた山の中……ではないけれど、最寄駅がない陸の孤島に位置する神奈川県愛川町の工業団地の中。
神奈川県に馴染みがほとんどない私のために、送迎車でお出迎え。
もう恐縮です。
さっそく、ESR本社にお招きいただき、工場に案内していただきます。
「あれ?ACR?こちらは?」
「はい。ESRとACRはグループ会社です。主に自動車関連部品を取り扱うのがACR、そして自転車部門がESRとなります。弊社でも目覚ましい製品が、後付け自動(衝突被害軽減)ブレーキシステムや、排ガス処理を取り扱うシステムなどです。特に、排ガス処理システムは東京都内を走る路線バスでは結構なシェアを保持しているんですよ。」
「東京都内はディーゼル車規制がさらに厳しくなっていますよね?」
「そうです、その規制の対策にあたって、弊社の排ガス処理システムが街のクリーン化に大きく貢献しています。」
↑後付け自動(衝突被害軽減)ブレーキ *ACR社より写真提供
↑ディーゼルエンジン性能改善装置および排ガス浄化装置 *ACR社より写真提供
私の子供時代の社会科見学は野田醤油工場でした。
おそらく、千葉県北西部出身者は野田キッコーマン醤油工場か石井食品のミートボール工場でしょう。
千葉県民として幼少期を過ごし、文系に進んだ私にとっては、工業製品を取り扱う工場訪問は今回が初めて。
もっとオイルまみれで汚いのかと勝手にイメージしていましたが、綺麗な工場に驚嘆。
偏見とは恐ろしいものです。
さらに、工場ガイドツアーは続きます。
持っているカバンをぶつけて機械を壊してしまわないかとハラハラドキドキしていたからか、話が頭に入ってきません。
いや、熱く解説をしてもらった各機器の解説は、理系出身ではない私にとっては単語の断片しかわからないからかも。
自分の勉強不足が悲しいです。理学部や工学部出身の友人がいれば、もっと会話が弾むのだろうか。
技術的なことが全くわからなくても、しっかり伝わったことがあります。
それは、想像もしていない熱意で工業製品が同社では造り出されているということです。
その熱意で私たちの周囲だけ温度が違う気がするくらいです。
どんな自転車を開発しているのか?
自転車は別の場所で開発されているとのことで、場所を移動し、これまでに開発してきた自転車の紹介をしていただきました。
ものづくりに対するこだわりが、これでもか!というくらいに発揮されています。
アルミロードバイクALTAILE
まず見せていただいたのが、ロードバイクALTAILE。ESRのロードバイクというと、
初音ミクとのコラボにより勝負をした自転車
だと思っていました。(失礼すぎる偏見、すいません)
ところが、ALTAILEの開発経緯をうかがうと、「え?そこまでのこだわり?」と驚き、言葉を発することができなくなってしまいました。
偏見とは恐ろしい。
特に驚いたのが、フレーム設計です。
アルミパイプを薄くすれば、軽くなるけれど、強度が落ちます。
強度を上げれば、重くなるし、乗り心地にも影響します。
↑薄いところを力がある人が押せば、凹むかも!?
単純にアルミパイプを溶接するだけじゃないんですよね汗
100万円単位のお金を出して、エンドを除くパイプを全て新規で作成されたとの事です。
実際に0.5mm単位のパイプで複数の試作フレームを作成してデータ収集。
↑リアステイの左右でも厚みをかえて、それぞれデータ収集。
コンピュータ上の3Dデータで応力解析するだけでなく、実際に試乗をして、乗り心地を人間の感覚で確認しています。
有名ブランド製品との完成車での乗り比べ試験もしているとのこと。
ほぼ同じフレームサイズの他社製品を複数購入して、パーツ、ホィールは同一シマノパーツでアッセンブルして社員だけでなくクラブチームの方にも乗り比べて貰ってとても良い評価を得ているとのこと。
日本人開発者だからこそできること。
↑日本で設計&開発しましたよ!
↑チェーンステイ左側だけが1.5mm厚の試作フレーム。0.5mm単位までこだわっています。
多くの海外ブランドもきっと、乗り心地を研究しているでしょう。
しかし、その快適さは西洋人やツール・ド・フランスに出場するトッププロ選手にとっての良さかもしれません。
私たち日本人エンドユーザーの気持ちがわかるのは誰でしょうか!?
もちろんライバル会社の研究もしています。
アルミバイクで有名な他社製品を持ち込み、成分分析機にかけて各社のアルミ材に含まれる各種成分の含有量を調べるなどもしています。
そういう機械を自社保有しているからこそできることです。
一般的な自転車開発工房などではまず所有する事のない機械だそうで、自動車部品などの開発を手がけているからこその強みといえるでしょう。
さらに、耐荷重を比較して、自社と他社、それぞれのフレーム剛性も実測で確認しています。
↑他社と自社のフレーム重量を比較。さらに荷重―変位を比較した実験結果。
これほどまでに熱意のこもったアルミロードバイクは105完成車で7.7kgという軽量化を達成しています。
が、知名度はイマイチ。
「なぜ?」
「やはり、ブランド力というのは大きいですよね。まだ私たちの企業努力が足りずにESRという名前が知られていないのです。」
「うーーーん」
と、どこか納得がいかずにいると、
「実際に自転車屋さんに営業に行き、カタログを見せようとすると、うちでは扱わないよ。と門前払いに会うこともあります。」
「私のサイトで御社を紹介することで、少しでもイメージが変わればよいのですが。」
案内をしていただいた開発者の皆さんがニヤリと微笑んだ気がしました。
大人気の折りたたみ自転車、Pursuer Disc
「嫌な質問をしますが、折りたたみ自転車のPursuerは折りたたみ方だけをみると、DAHONとそっくりです。どのあたりが、Pursuerのこだわりなのですか?」
「ミニベロはホイールが小さいので、どうしてもハンドル操作と乗り心地が悪くなってしまいます。それを少しでも解消できるように、工夫をしました。」
確かに、Pursuerに試乗したとき感じたのは乗り心地の良さでした。試乗したときの気持ちを思い出しながら、話に耳を傾けます。
「他のブランドと比較しても少しハンドルが近く、あまり前傾姿勢になりません。スポーツバイクに乗り慣れていない人でも楽しめるようにしています。」
「確かにPursuerに試乗したときの乗車姿勢はきつい前傾になりませんでしたね。」
「ハンドルとサドルの間隔を近くにすることで、乗車姿勢は楽になりますが、車体全長(ホイールベース)は短くなってしまいます。」
「コンパクトになってよいのでは?」
「そうでもなくて、ホイールベースが短いと自転車がふらついてしまうのです。安定しないのです。」
「どのように解決するのでしょうか?」
「安定味がでるように前フォークステムの角度(ヘッドアングル)とオフセット量を工夫しています。」
「フォークを寝かすと曲がりづらくなりますよね。」
「はい、そこで、ベストなヘッドアングルとオフセット量、トレール値、ハンドル位置、重量バランスなどを何度も見直して調整しました。フレーム全体としては、ハイドロフォーミングで美しく機能的なフレームで、アウターケーブル類もフレームに内装している点も他社とは差別化している点です。」
↑工夫されたフォーク
「Pursuerのフロント側にそこまでの工夫があるとは知りませんでした。リアにも工夫があるのでしょうか。」
「例えばチェーンラインです。自転車フレームの中心面からフロントギヤ歯先中心迄の寸法(フロントチェーンライン)、同じく自転車フレームの中心面からリアスプロケットの真ん中の位置(リアチェーンライン)が極力同一になるようにします。
前後全てシマノ製のコンポなら問題無いです。しかし、折りたたみ自転車みたいにフロントギヤが社外製になると、この寸法がおざなりになる場合も有りますので、注意しています。
他には多段変速の場合のリアセンター寸法(ハンガー中心~後車輪軸中心)はシマノ基準の寸法が有ります。折りたたみ自転車だからといって、シマノの基準寸法は外さないで設計しています。」
「ということは、他社さんでは基準外もあると?」
「他社は他社で、それぞれ開発陣の考え方があると思うのです。Pursuerの場合は、折りたたみ自転車だからといって、走行性能および変速性能を損なうものにしたくはないのです。」
↑チェーンラインについて説明を受ける
Pursuer ClassicとPursuer LC
折りたたみ自転車Pursuerの走行性能は乗ってみればわかります。
そのPursuerが多展開されています。
Pursuer ClassicとPursuer LCで、それについてもお話をうかがうことができました。
「Pursuerの良さを多くの人に知ってもらいたいと思い、いくつかのバージョンがあります。」
「どのようなものですか?」
「まずは、Pursuer Classicです。サドルなどのパーツ構成と色を見直して、どこか親しみやすいようなデザインにしてみました。女性にも興味を持ってほしいと思っています。」
「さらに、Pursuer LCと呼ばれるモデルです。特徴は
女性にも支持されるオシャレなフレーム色
基本的なフレームはディスクモデル同様の高品位フレーム
調整が楽なVブレーキを搭載
ハンドルをさらに手前にして乗りやすく
ハンドル高さはワンタッチで調整可能なものに
前後泥除けを標準装備
街乗りで使いやすいキックスタンド
価格もグッと抑えてお求めやすく
です。
新型コロナウイルスの影響でパーツ入手が困難な時期ですが、なんとか在庫を準備できました。1台ずつ段ボールを開けて、検品チェックをしているところです。」
「検品チェック?」
「はい、最終的な組み立ては販売店にお願いしていますが、その前段階で明らかにおかしいものがないかを確認しています。」
「実際にどのような点をみているのですか?」
「全く違うブレーキが装着されているとか、ESR設定のパーツが搭載されていないなどがまれにあります。エラーがあるのは避けられません。よって、ひとつひとつ段ボールをあけて、検品をしています。」
ひとつひとつ。。。
凄いダンボールの山が積み上げられているのをみると、気が遠くなる数。
開ける&確認をいったい何回すれば終わるのだろうか。
開けないで販売店に送ってしまっても販売店側で気づくでしょう。
でも、それではメーカーとしての信頼が損なわれてしまいます。
万が一、エンドユーザーに渡るまで気づかれなければ、事故に繋がるかもしれません。
そう考えると、絶対にちゃんとしたものを届けようというエンジニアの熱意を感じ取ることができました。
ふと段ボールの山から脇に目を向けると、多くの自転車が埋もれていました。
その中にはESRマグネシアと呼ばれていたころのフレームも。
マグネシウムフレームはやはり開発コストと性能のバランスが取れなかったのでしょう。
今は、アルミフレームの自転車にエネルギーを注力しているようだったので、この話題はそっと蓋をしておきました。
ESR社を訪問して
熱意。
ひとことで訪問の感想を表すと「熱意」という言葉がピッタリ。
自社でもっている材料分析装置、オリジナルのフレーム剛性テスト機械、3Ⅾプリンターなど。
他社製品のあくなき研究。
自社製品の極限までのこだわり。
その全ては熱意がなければ、できないこと。
「ま、このくらいでいいか。」
とテキトーにやっても、エンドユーザーはすぐに気づかれないかもしれません。
しかし、そういった気持ちは、製品品質にジワリジワリと現れてきてしまいます。
熱意から妥協なきこだわりが随所に感じられる会社訪問でした。
今日も『自転車でGo.com』にお越しいただきありがとうございます。開発中の電動アシスト式折りたたみ自転車Ventiの試乗レビューに続きます!
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